yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

「新版国性爺合戦」by 3D-DELUX@シアター・ドラマシティ10月15日

現代に近松劇という古典を蘇らせると言う試みは評価できる。でも逆にそれに返り討ちされたという面も否定できない。古典の枠を借りつつ、そこに現代的な舞踊(殺陣)と演劇とを入れ込むという趣向だったのだろう。テンポそのもには演劇というより、ゲーム的だった。古典と「ゲーム」との融合を図った?でもそこに全ての齟齬の源があるように思った。古典枠を借りず、いっそのこと、タイトルも変えた上で、あたらしい演劇形態として打ち出したほうがよかったのでは。あくまでもワタシ的にはだけど。

近松の原作の内容、プロットはほぼ踏襲されていた。時代は一応中国明朝時代(17世紀中盤、日本では江戸時代)ということになっていて、衣装等の風俗も当時のものと思しき体ではあったけど、どちらかというと時代、国籍共に不明な感じ。歌舞伎で三段目を以前に見ているが、歌舞伎版とは違っていたような。もちろん人形浄瑠璃とは月とすっぽんほども違っていた。ずっと軽やかな今風の感じ。

台詞は完璧に現代語に置き換えられていた。間にLINEなどへの言及もあり、極力今の観客の感性に沿うように設えてあった。「劇団☆新感線」のセリフを思わせた。とにかくテンポが速い。台詞も軽い。俗語、スラング、今風のアドリブ等々が多く使われているから。この点では歌舞伎とは真逆。「時代物」なので、登場人物が市井の人ではなく「高貴」な人間。その点ではあまりにも軽々しい感じに思えてしまった。「歌舞伎NEXT」の『阿弖流為』ではその辺りはしっかりと抑えてあったので、どうしても比べてしまった。

近松の原作内容は結構重い。裏切りに次ぐ裏切り。台詞をここまで軽くしてしまうと、この重さが出てこない。そこらへんの兄ちゃんと姉ちゃんの会話ではないのだから、場面によってはあまりにもの台詞の軽さに鼻白んでしまった。何度もいうけれど、登場人物の多くは市井の人ではなく日本と明朝の「高貴」な人間たち。例えばシーン17の小むつと梅壇皇女との会話部。小むつ、「コレはあたしのおっかあもかかった病で、ウチの持病みたいなものさ」とか、梅壇皇女、「和藤内ニ会ッテ、ドタマカチ割ッテヤリタイヨ」なんて台詞はいただけない。「歴史考証」なんて小難しいことはいいたくないけど、これはあんまり。観客への媚びに映った。

とはいえ「軽い」ことが生きた場面もあった。それは虎を人間がやったところ。和藤内といえば、どうしてもあのお茶屋遊び、「とらとーら とーらとら♪」を連想してしまう。それを逆手にとって、人間にしてしまう工夫は面白かった。

この軽さは当ユニットに集まった役者に合うように台詞が整えられたということなのかも。それならば納得。エロキューションに重きがおかれず、身体活動により重点が置かれていたから。極力現代劇の路線を貫くという意味では、これもありかもしれない。だからむしろ古典枠を借りずに、新しい演劇として欲しかった。

もう一度強調するけど、原作を一度解体、短く再構成しても良かったのでは。現代的な役者たちの身体を介して出てくるものは、近松とはあまりにも違いすぎる。だからこの身体から生まれ出るもの、その身体と身体の摩擦から生み出される何かにより比重を置けば、自ずと近松原作とは質の違う芝居になる。そちらを主眼にして構成するなら、近松の再現ではなく、解体ということに必然的になる。わたしとしてはそちらを見たかった。

それとあと一点、無い物ねだりを承知でいうのだけど、現代の社会(世相)と連動させるところを、組み入れても良かったのでは。もちろんさりげない形で。近松の原作にはそのような隠された「意図」があったと思われる。そのひねりがあるとないとでは、単に「良かった!」、「面白かった!」という以上のなにがしかの「思い」が、観客に残ったのではないだろうか。

もっとも、観客の多くはイケメンたちのスピード感溢れる殺陣(舞踊)を見にきていたのかも。だから彼(女)たちのほとんどは満足だったのかもしれないんですけどね。その点ではこの前日に見た中村勘九郎主演の『真田十勇士』との共通点を強く感じた。

ほぼ満席のホール。観客年齢層はかなり若目。で、終わってからのサイン会に長い列が。これは普通の商業演劇では見たことのない光景。大衆演劇、あるいは宝塚の終演後と似ている。役者と写真を撮る人も。これも大衆演劇でよく見る光景。佐藤アツヒロさんが終演後に言った言葉に、なぜこの演劇集団、そしてその舞台が普通の商業演劇と違っているのかのヒントがあった。1990年代の小劇場出身だとのこと。おそらく原作者の西森英行氏もその流れの中にあるのだろう。

最後にこの演劇ユニット、「3D-Delux」のサイトをリンクしておく。この日の出演者たちは以下。

佐藤アツヒロ
馬場良馬 / 緒月遠麻
大湖せしる / 名塚佳織(Wキャスト) ・ 加藤雅美(Wキャスト)
森 大 / 田中 精 / 林 明寛 / 山口大地
武藤晃子 / 谷口敏也 / 川口莉奈
湯田昌次 / 大山将司 / 金田瀬奈 / 中村悠希 / 村瀬文宣 / 大成翔輝 / 大塚晋也 / 安藤佳祐
清水順二
陰山 泰