yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

八月納涼歌舞伎 鶴瓶の落語を基にした新作歌舞伎『廓噺山名屋浦里(さとのうわさやまなやうらざと)』@歌舞伎座8月26日

笑福亭鶴瓶の新作落語を歌舞伎にアダプトした新作歌舞伎。以下、「歌舞伎美人」からの引用。

くまざわあかね 原作
小佐田定雄 脚本
今井豊茂 演出


<配役>
酒井宗十郎    勘九郎
花魁浦里     七之助
牛太郎の友蔵   駿河太郎
留守居役田中   亀蔵
留守居役秋山   彌十郎
山名屋平兵衛   扇雀


<みどころ>
堅物の田舎侍と吉原随一の花魁が魅せる人情噺
 江戸留守居役の寄合で、江戸の流儀に馴染めぬ酒井は、次回は自分の役宅で国の行く末を語り合おうと提案します。しかし、次回は互いに馴染みの遊女を紹介する趣向だと告げられたうえ、国元の踊りを笑われ、主君の悪口まで言われた酒井は、次回は自分も馴染みの女を紹介すると言い切ります。その直後、吉原一の花魁、山名屋浦里と偶然に出会った酒井は、ある決意をして山名屋へ乗り込むと、主人の平兵衛に、浦里に会わせてもらいたいと懇願します。丁重に廓の掟を説く平兵衛らのもとに、意外な人物が姿を現し…。
 笑福亭鶴瓶の新作落語「山名屋浦里」を題材にした新作歌舞伎にご期待ください。

重要な役どころを演じた駿河太郎は鶴瓶師匠の息子さん。道理で上手い。本物の噺家のようだった。

田舎侍が花魁に惚れ込むというテーマは歌舞伎の『籠釣瓶』(籠釣瓶花街酔醒)を思い出させる。悲劇で終わる違いはあるけれど。あるいは三島由紀夫の『鰯売恋曳網』も想起させる。こちらは喜劇。また、「花魁の身受けにあたっての競争の末、馬鹿にされ虐められていた男が花魁をかち取る」という筋の狂言は、大衆演劇で何度も見ている。だからこの筋は目新しくはなく、ちょっと使い古したもの。いろいろな既出の芝居のコラージュとみなしてもいいだろう。

落語を種にしていることからわかるように喜劇で終わるので、後味はとても良い。これはありがたい。

宗十郎役の勘九郎の馬鹿がつくほどの真面目ぶりが可愛い。ニンにもぴったり。真面目なでどこか抜けている、そんな男。そう見えるのも純真なゆえ。とくれば、女が惚れないのがおかしいだろう。身は売っても心が純真なままの花魁浦里が惚れこんでしまう。もっともなり。七之助の浦里の純真さを表すのに、田舎訛りでの口説きを使った工夫がいい。『鰯売り』の逆バージョンですよね。

女郎屋の主人、山名屋平兵衛を演じた扇雀の「大人」ぶりは粋のお手本。もっともこの人は大坂から江戸に来たことになっているのだけど。鶴瓶さんの大坂への思い入れ、「大坂にこそ『粋の文化』があるんだ」という気概が窺える。

最後の場面は、浦里の花魁道中を見る宗十郎(勘九郎)をちょっと離れたところから見送る平兵衛(扇雀)と友蔵(駿河太郎)という構図になっている。この四角形の構図がたまらなくいい。『籠釣瓶』のもじりだろうけど、こちらの花魁道中は、最後にほんわかした雰囲気で舞台全体を包み込む。後味のとても良い舞台。