yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

「闇からの声」in 『半七捕物帳』(1979)

脚本は村尾昭氏。ネット検索をかけたところ、「セブン」という方のブログに言及があった。「村尾昭先生四回忌ご命日」というタイトルの記事(2011-11-05)。以下。

村尾昭氏は大阪に誕生され、東映ヤクザ映画・テレビ「必殺シリーズ」において、数多くの傑作を発表 されました。非道な仕打ちを受けて苦しめられた存在が抱く壮絶な怨念を探求すると共に、家族や夫婦や恋人の厚き絆や仲間の大切さをしみじみと描いて下さいました。

2008年に75歳で逝去されているので、おそらく1933年生まれ。1979年当時は46歳だったことになる。「新網走番外地」「傷だらけの人生」などの東映映画やテレビの「必殺」シリーズなど数多くの脚本を手がけたという。他のサイトに作品リストが。

1962年から書き始めておられるので、おそらく大学を出てから映画会社(大映から東映)に入られたのでは。こういう経歴の人が時代劇映画、ヤクザ映画を当時支えていたのだろう。このシリーズの脚本家の中では当時若手だった?

リストからざっと目につくものを挙げると、
日本俠客伝(東映京都、1964)
日本俠客伝浪花篇(東映京都、1965)
兄弟仁義東映京都、1966)
昭和残俠伝吼えろ唐獅子(東映東京、1971)
網走番外地シリーズ(東映東京、1970—1972)
修羅の群れ東映京都、1984

そうそうたる作品群。

演出は松尾昭典氏(1928—2010)。彼はWikiに載っている。そこから借用した経歴が以下。

京都大学を卒業後、松竹京都撮影所に入社。その後、映画製作を再開した日活に移籍。同期の蔵原惟繕神代辰巳も松尾と同じく日活へ後に移籍している。
1956年、織田作之助原作の「わが町」の助監督を務め、1958年に「未練の波止場」で監督デビューした。
日本映画の黄金時代に活躍し、石原裕次郎主演の「清水の暴れん坊」「男が命を賭ける時」、吉永小百合主演の「霧の夜の男」などや高橋英樹主演の『男の紋章』に代表される任侠映画も監督、また石原裕次郎主演の『紅の翼』をはじめ、脚本作品も何本か執筆していた。

この方は俠客ものではなく日活のものを主として演出したよう。でも例外的(?)に日活版『網走番外地』(1964)、『喧嘩博徒 地獄の花道』(1969)もある。

そして、「闇からの声」。この脚本家、演出家の組み合わせが面白い。他の半七ものより、原作より以上にヒューマンドラマ度が高め。「虐げられし者」の深い恨みと、それに同情する眼差しが強く全面に出ている。大まかな筋は以下。

三林京子演じる)おきよとその弟たち、伊兵衛、伊八、そこに札差の「白銀屋」が絡んだ事件。おきよの父は酒癖が悪く人を殺めてしまう。それをお縄にしたのが半七。おきよの父は死罪になり、それ以来おきよは半七を恨み、憎んでいる。両親を子供のうちに亡くした極貧の中、おきよは幼い身体を売ってまで、弟たちを育てた。「貧乏ほど悲しいものはありませんね」というのが、彼女の口癖。この男勝りのおきよ、弟たちの母がわり。この父性と母性双方をまだ若い女性が兼ね持っているという設定がいい。彼女の着物は木綿の洗いざらし、帯もそう。最後までずっと同じ着物と帯で登場する。

伊兵衛が喧嘩で殺され、その下手人として札差の「白銀屋」の倅、甚吉を半七が捕えた。連れて行かれる甚吉を追って白銀屋主人が出てきて、半七に小判の包みを渡し、見逃してくれるよう懇願したが、半七は無視。それからしばらくして、半七に「旦那方のご詮議は間違っています。伊兵衛を殺したのは甚吉ではありません」という闇からの声が発せられる。それは町内のあちらこちらで聞かれ、「半七親分が間違っていたんだってさ」という噂になる。調べて行くうちに、それはおきよが金で町の人間を買収し、そう噂させていたことがわかる。おきよと対峙する半七。怒らない。同情心溢れた表情。

一方、おきよの弟、伊八は金回りが急に良くなり、大工仕事もサボって遊んでいる。また、おきよが半七を父を捕えたことで恨んでいたことがわかる。この事実から、半七はおきよが白銀屋に買収されていると推理する。例の闇からの声を追って行くと、案の定その主は伊八だった。彼を捕らえたところに、おきよがやってきて、自分をお縄にするようにと言い張る。同心の岡崎の了解を得て、半七は伊八を釈放。

ところがそれを聞きつけた白銀屋が子分たちを引き連れ伊八に殴る蹴るの乱暴をする。見とがめた半七が自分を殴れというと、子分たちは半七に狼藉する。それを見て、半狂乱になって半七にすがるおきよ。

白銀屋にもらった300両の小判はそっくり返すと白銀屋にかけあう。すでに伊八が使い込んでいる分は後で返すというが、白銀屋は承知せず、おきよの身体で払うようにという。怒った伊八は白銀屋に乗り込み、そこで殺されてしまう。

伊勢参りと称して逃亡を図る白銀屋一家。そこに殴り込みをかけた半七は一味を取り押さえる。

伊兵衛と伊八の真新しい卒塔婆の前で座り込んでいるおきよ。それを離れたところから見ている半七。その耳に「貧乏ほど悲しいものはありませんね」というおきよの声が響いている。

三林京子さんのキリッとした男前のおきよ。見惚れる。そのおきよが「敵」である半七に心を開き、彼に惚れ込んでしまうところの心理の動き、その描き方が秀逸。苦労し通しだったおきよの辛さを理解し、それに寄り添う眼差しで彼女を見ている菊五郎半七の表情がたまりません。