yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『薫樹累物語(めいぼくかさねものがたり)』第143回文楽公演@国立文楽劇場8月1日

ほぼ通しの、[豆腐屋の段/埴生村の段/土橋の段]だった。

「累(かさね)」として知られる狂言、『色彩間苅豆』を何回か歌舞伎で見ている。ただし通しではなく、最後の土橋の場面のみが多かった。私の記憶に残っているのは富十郎と菊五郎のかさねだったのだけど、昨晩からいくら検索をかけても富十郎版が出てこない。最後の帯を使っての舞踊、凄まじい残像を覚えているんだけど。ひょっとしたら私の記憶違い?

歌舞伎での「土橋の段」は、その基になっている人物関係、経緯がよくわからないまま、「怪談もの」として観ていた。今回初めてその経緯が納得できた。とはいっても、歌舞伎の「かさね」とは随分と違っていた。これには驚いた。特に与右衛門の人物造型。歌舞伎でのそれは『四谷怪談』の伊右衛門のような悪党だったけど、浄瑠璃のそれはまるで違っていた。元相撲取りで、情味のある豪傑。かさねを殺すのも、主の姫君、歌潟姫を守るため。何しろ嫉妬に狂った累が鎌で姫を斬り殺そうとするから。その累もそれが本性ではなく、以前に与右衛門が主君への忠義立てとして泣く泣く殺めたかさねの実の姉、高尾の悪霊が憑依しているから。この辺りは「筋書き」に詳しく出ているので、写真に撮ったものをアップしておく。

極めてインテンシブな大夫さんたちの語り。中でも呂勢大夫さんのそれは、間違いなく彼の代表作になると思われるもの。「土橋の段」の奥を語られた。三味線はもちろん清治さん。すぐ前の席で、それこそつばきが飛んでくるほどの近くでこの力演を聴けたこと、私の観劇体験中でずっと記憶に残るものになった。溢れんばかりの情の籠った朗々とした名調子!思う存分堪能できた。

嫉妬に狂った累。そこに姉の高尾の怨念が乗り移り、累は鎌を手に恐ろしい形相で歌潟姫に襲いかかる。それを止めに入った与右衛門は、なんとか累を宥めようとする。でももみ合っているうちに過って彼女を傷つけてしまう。累のかしらは「累のガブ」と呼ばれる夜叉の形相。累にはもはや理が通らないと判った与右衛門が彼女にとどめを刺す。ここの緊迫感溢れる語りをものすごい迫力で語られた呂勢大夫さん。手に汗を握った。舞台の上では玉男さん(与右衛門)と累(和生)さんとの一騎討ち。こちらも語りに負けない迫力。大夫、三味線、人形遣いとが一体となった、モーレツな舞台だった。


これを確認できたのも、前売りの早い段階で劇場まで出向き、大夫床のすぐ前席を確保したおかげ。文楽劇場のネット予約では良席は取れないんですよね。