yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

三品和広著『モノ造りでもインターネットでも勝てない日本が、再び世界を驚かせる方法―センサーネット構想 』(東洋経済社、2016年3月刊)

まさに出たばかりの本。副題が「日米再逆転の戦略」となっている。ぱらっと中身を見ただけで、面白いとわかったので即購入。そのまま喫茶店に入って読み終わった。面白かった。

三品氏については全く知らなかった。経営、経済が専門ではないので、当然なんだけど。後でネット検索をかけると経営論では著名な方。一橋(大学、院)からハーバード大学で企業経済のPh.D.を取られている。ハーバードのビジネススクールで教鞭をとられた後、帰国、現在は神戸大学大学院の経営学の教授。本の内容がいかにも若い。でもご本人は50代半ばとわかって、驚いた。彼のゼミの学生で、かつ彼が主催されている研究会に所属、そして現在シカゴ大の大学院に籍を置く松本行平氏を初めとする「仲間」が、三品氏のアウトラインを文章化されたと聞いて、なるほどと思った。日本の大学の教授たちの発想ではないから。内容もさることながら、こういう「共同作業」がいかにもアメリカ的。

「嫌になるほど圧倒的なアメリカのイノベーション。だが虚心坦懐にその歴史に学べば、対抗策が見えてくる。」というのがカバー見開きにあるキャッチフレーズとでもいうべきもの。ここに本の要旨が凝縮されている。対抗策として三品氏が提唱しているのが「センサーネット構想」。この本の最後にそれがいかなるものかの解説が付いている。文系人間の私には、残念ながらちんぷんかんぷんだけど。古い(?)表現を使うなら、「パラダイムシフト」に乗り遅れた日本がアメリカに勝つには、今までのやり方、特に既存の企業とその事業の形態を壊し、新しいものを創りださなくてはならないということ。日本が製造業に「しがみついて」いる間に、アメリカはその場を日本に譲り、新しいフロンティアを開拓していった。その例がインターネットに乗ったビジネスであるグーグルであり、アマゾンであり、フェイスブックである。過去の「栄光」にしがみついて、おいてきぼりを喰らった国の例をこの本ではイギリスに見ているけれど、日本もそうなるかも。

私が最も興味深かったのはその後半部よりも前半の、アメリカがイギリスに「勝利」、資本主義的独走体制をいかに築きあげたかという章だった。壮大なドラマ!これ、アメリカの大学での経済、経営関係の講義では必ず取り上げられるトピックに違いない。ユニークというか、視点の取り方が日本人のそれとは違っていた。アメリカのイギリスへの勝利の象徴を「エリー運河開設」と「ウォール街」に見るというのは、特に興味深かった。どういったらいいのか、スタティックな歴史を「さらえる」というのではなく、歴史をダイナミックなムーブメントとして捉えるという視点を強く感じた。そしてその視点は今現在起きていること、起きつつある出来事もその一環として捉えている。それはそのままアメリカの強みでもある。イノベーションが起こるべくして起こる環境。グーグル、アマゾン、フェイスブックそれぞれの登場をアメリカにいて「目撃者」(eye-witness)にならされたので実感がある。

日本ではよく「アメリカの終焉」なんて言葉を頻繁に目にするし、耳にする。でもそれには私は懐疑的。アメリカには常にものすごいパワーを感じる。いつも新しい。向こうにいれば否応なくそれを思い知らされる。日本にいてそれを思い知らされるのはアメリカの株式。日本の株式が下がったままでも、アメリカのそれは下がっても必ずや復活する。イノベーションに前向きだから。アメリカでは経済が政治に常に「優先」している。それが規準になった価値判断がある。他文化から見たとき、それはあまりにも俗っぽい、危ういと映るかもしれない。でもそれを仕切るのは「フェアプレイ」の精神。それは揺るがない。経済(効率)と倫理(フェアネス尊重)との両輪とでもいうべきもの。夢をどこまでも追求する精神は、そこに咲く花だろう。ここにアメリカ社会の強さがあるように感じる。他国とアメリカを差別化している、最も大きな点は、それだと思う。

見開きの後半は、「本格的な情報社会の到来を好機と捉え、資本主義の進化系を提示するくらいの気概を見せてはどうでしょうか。そうでもしないかぎり、日本の存在感は失せる一方です」となっている。ここに著者の危機感が如実に出ている。三品氏が提唱されている「日米逆転」の戦略、方法は活かされるのか。実践できるのか。スピードも問題。明治維新の、あの若いパワーを切望してしまう。あの頃の日本には夢(共同幻想)を共有し、それを追求、実現させるだけの機動力があったのでは。