yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

映画『『あるスキャンダルの覚え書き』(Notes on a Scandal)(2006)ジュディ・デンチ主演、ケイト・ブランシェット助演作品

ロンドンから帰りの便、ブリティッシュ・エアウエイズの機内で観た映画。もう2ヶ月も前になる。衝撃的だった。すぐに記事を書いたのだけど、そのまま放置していた。観る側を楽しくさせる映画ではない、少なくとも。

『Notes on a Scandal』、主人公が「追いつめ」ていた相手から、今度は「追いつめられる」、そのサスペンス度の高さは“Psychological thriller”という謳い文句に恥じないもの。IMDbの評価は「7.4」、Rotten Tomatoes での評価は87%、Guardian誌も星数4(out of 5)と高い評価。私としては88点。

原作者はZoë Heller。監督はRichard Eyre、カメラ、Chris Menges,
以下に主要キャストを。

• Judi Dench as Barbara Covett
• Cate Blanchett as Bathsheba ("Sheba" or "Bash") Hart
• Bill Nighy as Richard Hart
• Andrew Simpson as Steven Connolly
• Tom Georgeson as Ted Mawson
• Michael Maloney as Sandy Pabblem
• Joanna Scanlan as Sue Hodge


実際にアメリカの高校であった事件をもとにしているらしい。中年の独身教師のバーバラ、ジュディ・デンチはその孤独と屈折を、視線、口元の動き、手の仕草といった身体全体で、リアルに描いている。おそろしいくらいリアルに。

一人アパートに住むバーバラの孤独。それを埋める対象ができた。それは新入りの美術教師、シバ。金髪の美しい女性。バーバラのウキウキ感に見ている側も感染する(ように仕向けられる)。美しいシバは彼女にとって新しい恋人なのだ。でも、なにかヘン。バーバラが(シバと)いくら距離があるようにふるまっても、あまりにもその対象に感情移入しすぎであることが伝わってくるから。恋人を得た、というより「獲物を得た」という感じだから。

ここに窃視(voyeurism)の問題が強烈に立ち上がってくる。バーバラの視線がなめるようにブランシェット演じるシバを追う。シバが教えている場でも、生徒たちとサッカーをしてる場でも、学校にいるシバをバーバラの視線が追う。カメラはバーバラの視線と化している。そのカメラに同化した私たちの視線も、シバを執拗に追うことになる。覗き見していることの、居心地悪さ。ある種の罪悪感。

シバが教え子の少年(15歳)と関係をもっている現場を覗き見たときのショック。デンチのその表情、これだけでも賞ものである。裏切られた怒り、シバという愛人を取られた口惜しさ、そういう感情と同時に、シバがまだまだ女として性愛の対象になりうる事への妬ましさ。この複雑な感情の絡みが、デンチの表情には顕れていた。

一回目に観た折には最後まで見るガッツがなかった。でも思い直して、もう一度観た。シバが勇敢にもバーバラと対峙することを見届けてほっとした。でも最後のシーン、再びバーバラが新しい獲物を得たと分って、おぞましいと同時に哀しさも、そしてさらには滑稽すら感じてしまった。彼女の屈折がこちらにも感染したのかも。

ブランシェトはシバにこれ以上ないほどぴったり。そしてシバの愛人になる高校生を演じたアンドリュー・シンプソン、英国映画界の新星になるに違いないと確信した。