yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

ベルグ作 オペラ『ルル』MET ライブビューイング@大阪ステーションンシネマ1月17日

これを見れて、「生きていて良かった!」って思った。特に第1、2幕。形而上学的テーマと現実の舞台が一体化する、そんな瞬間をこのフィルムを観劇中、何度も経験した。日常では捉えられないアブストラクトな事象が、登場人物にメタモルフォーゼ。「非日常」が、人物の姿を借りて目の前に現れ出る。そんな場に立ち会えた。非日常の化身がこの作品の主人公、ルル。その「ルル」がペーターセンという魅力的な歌手の身体を借りて(身体に憑衣して)、私たちの前に立ち上がってきた。

日常の枠、理性的判断を超越したところに、彼女は在る。屹立してあり続ける。なんと魅力的な女性か。なんとおぞましい女か!ファム・ファタールと天使、この両極の内に、ルルはいる。そんなルルは、あらゆる解釈を赦すだろう。

以下、松竹のサイトからの概説。

オペラ史上最大の「ファム・ファタル」!魔性の女ルルの凄絶な人生を最高のキャストで!

指揮:ローター・ケーニクス 
演出:ウィリアム・ケントリッジ
出演:マルリース・ペーターセン、スーザン・グラハム、ヨハン・ロイター、フランツ・グルントヘーバー、ダニエル・ブレンナ、ポール・グローヴス
上映時間:3時間54分(休憩2回)[ MET上演日 2015年11月21日 ]
言語:ドイツ語

魔性の女ルルに魅入られた男女の凄絶な転落劇!斬新な音楽と猟奇的な物語で音楽界をゆさぶった20世紀オペラ最大の問題作が、ライブビューイングにその全貌をさらけ出す!本作を十八番とする俊英L・ケーニクスと現代アートの鬼才W・ケントリッジのコラボレーションはスリリングな体験になること間違いなし。ルル役で世界に躍り出たM・ペーターセン、METが誇るスター・メゾ、S・グラハムら最高のキャストが、ベルクが命を賭けたオペラの革命を体現する!
20世紀初め、ドイツのある町。町で出会った少女ルルを連れ帰って育てたシェーン博士は、彼女に惹かれながらも官僚の令嬢と婚約し、ルルは医者のゴル博士に嫁がせる。男という男を魅了するルルは画家と浮気をし、現場を目撃したゴル博士は悶死。ルルはシェーン博士の妻の座を手に入れる。だが男女を問わず奔放な関係を続けるルルに、逆上したシェーン博士はピストルを突きつけるが、逆にルルに殺されてしまう。投獄されたルルは女の恋人の手引きで脱獄するが、もはや体を売るしか生きる道は残されていなかった・・・。

この解説を読むと、「一人の性的に放縦な女の転落劇」と読める。だから、私としては、この最終幕は不要だったと思う。そこまでルルを「貶める」意味はない。やっぱり男の(あえていえば父権主義的)「オチの付け方」が透けて見えてしまう。ルルはとことん、「神格化」しておくべきでしょ。だって、こんな女性、いるはずもないから。虚構化を最大限施しておくべき、またそれに値する女性(像)じゃないですか。こんな女、ある意味男の「理想」でしょう。また女にとっても「理想」じゃないですか。自分が永遠になれそうもない「女」。憧れますよ。

この魅力的なルルを演じたマルリース・ペーターセン(マルリス・ペーターゼン)。この『ルル』をもって、ルル役を封印するという。20代からこの役をやってきて、現在48歳。モッタイナイ気もするけれど、若い人に譲ったんでしょう。体力的、精神的にも、この役はきついだろうし。引き際をわかっている方だと感心した。

『ルル』は、ドイツ版『ピグマリオン』だと思った。ジョージ・バーナード・ショー作の『ピグマリオン』、映画では『マイフェアレディ』になっている。「ファム・ファタール」なんてのはいずれの作品にも感じられない。でもね、やっぱり男がどっぷりとはまる女ってのは、こういう要素があるんじゃないだろうか。自身が「育て上げた」少女が、いずれは自身を「喰い殺す」モンスターになってしまう。

ライブビューイングの魅力の一つが幕間に放映されるインタビュー。今回はデボラ・ボイトがインタビュワー。彼女自身もオペラ歌手なので、質問が的確。そして温かい。この方、なんと以前に「太り過ぎ」を理由に英ロイヤル・オペラ・ハウスを解雇されたことがあるのだという。その後54キロ!の減量をして、復帰したのだとか。オペラ歌手は歌唱力のみならず、容姿、演技力が求められる時代になったんだと、改めて思った。

最初の幕間(ライブビューイングでは休憩)にこのオペラを演出したウィリアム・ケントリッジ氏へのインタビューが放映された。これはMET総裁のゲルブ氏ががインタビュワー。きわめて過激な演出だったので、若手演出家だと思い込んでいたのだけど、なんとかなりの年配。おどろいた。と同時に感性を瑞々しく保っていることに、畏敬の念を覚えた。アメリカには「年功序列」なんてほとんどない。実力の世界。人種、国籍、年齢、男女差が著しく少ない。だから、この年齢まで第一線、それも超一線に居続けるというのは、すごいこと。クリアカットな頭脳、感性の鋭さが感じられるインタビュー内容だった。

私たちがペーターセンのルルを観られるのも、この上映が最後。上映は今週の金曜日まで。