yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『通し狂言 小春穏沖津白浪 −小狐礼三』(こはるなぎおきつしらなみ こぎつねれいざ)@国立劇場1月10日

もう圧巻!古典歌舞伎の復活上演がここまでの魅力的な作品になるのかと、感心しきり。菊之助がやってくれました!海老蔵染五郎、そして勘九郎七之助のここ数年の活躍。未来の歌舞伎の形を探る新しい挑戦の数々。それらは今や大きなうねりになっている。その大きな波の中で、いささかおとなし目な印象をぬぐえなかった菊之助。彼がなみなみならない力があるのは舞台で証明されてきていた。特に、昨年5月、歌舞伎座での『合邦』」での玉手御前。お祖父さまの故梅幸のも見たことがあるけど、それよりもずっと現代的な玉手だった。あのシンと冷たい横顔の怖さ、忘れられない。

他の若手役者、梅枝、(尾上)右近、萬太郎、亀寿たちもそれぞれがはまり役。親年代の菊五郎時蔵、萬次郎、そして亀蔵(!)も深み、厚みのある演技で、若手を支える。それぞれの役者の強烈な「意欲」が一つの作品を創り上げていた。感激!

加えて、舞台装置が最高だった。一幕中、まるで西洋のオペラのように幕は閉まらない。舞台装置を回して、場転換をする。それが華麗なんですよ。今日は三階席の後ろだったので、パノラマのようにそれが確認できた。

中でももっともすぐれた工夫は、やっぱり大詰の鳥居群。大きなものからだんだんと小さいものになってゆく鳥居群。それらがまるで蛇がうねるように舞台を動く。廻り舞台を使ってのものだけど、こんなの初めて。すごい!すごい!を連発しながら観ていた。その蛇腹のように動く鳥居群の上を菊之助が駆け回る。20人を超える捕り手陣との立ち回り。華麗な大スペクタル。菊之助の新境地。捕り手たちも上手い。

興奮が覚めやらないけど、あらためてオフィシャルな情報を以下に。

この狂言河竹黙阿弥生誕二百年を記念しての上演。

河竹黙阿弥=作
木村錦花=改修
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=補綴

国立劇場文劇研究会のすぐれた補綴には、過去に何度もうなった。スタッフの学術レベルの高さ。彼(女)たちの熱心な、手間、暇惜しまない作業の上に成立する補綴。商業ベースの歌舞伎エイジェントではなかなかできない作業。国立劇場だからできたこと。また、そういう「地味」な作業に協力してくれる歌舞伎役者がいて、初めて可能になったことでもある。その成果がアーカイブになるのが、なによりもすごいことかもしれない。

今回の『小春穏沖津白浪』は四幕十場からなる、長丁場。それでも原作全部ではない。昔の人たちの「忍耐力」を思う。なんせ芝居見物は丸一日だったんですからね。見るだけでも相当の体力、胆力がいりますよ。

幕構成は以下。国立劇場サイトからのもの。

序 幕  上野清水観音堂の場

二幕目
第一場(雪)矢倉沢一つ家の場第二場(月)足柄越山中の場
第三場(花)同 花の山の場

三幕目
第一場  吉原三浦屋格子先の場
第二場  同二階花月部屋の場
第三場  隅田堤の場
第四場  赤坂田圃道の場

大詰  
第一場  赤坂山王稲荷鳥居前の場
第二場  高輪ヶ原海辺の場

以下、出演者と配役。これは筋書から。

尾上菊五郎 日本駄右衛門
中村時 蔵  女盗賊、お才/修行僧経典
尾上菊之助 小狐礼三
坂東亀三郎 奴弓平
坂東亀寿  雪村三之丞/小助
中 村梅枝 月本数馬之助
中村萬太郎 六之進/友平
市村竹松 所化、天錦
尾上右近 傾城花月
市村橘太郎 中間早助/遣手婆、お爪
片岡亀蔵   三上一学
河原崎権十郎   猟師牙蔵
市村萬次郎 傾城深雪
市川團蔵 月本円秋
坂東彦三郎 荒木左門之助

時蔵が良かった。声が良いし、姿も良い。前より、若返ったような感じがする。子息の梅枝、萬太郎との共演の所為?

梅枝がめずらしく立ち役。ただ、優男。嵌っていた。右近も傾城花月の廓には不似合いな「お姫さまっぽさ」を出していた。役解釈が優れていた。案の定というべきか、亀蔵の敵役はこれ以上ないはまり役。また萬次郎の傾城深雪は意外性が面白い。最初、「ぎょっ!」ってしたんですけどね。

黙阿弥らしく、流麗な台詞回しが全編を彩る。またこれも黙阿弥劇につきものの「だんまり」、他作品よりも多いように感じた。国立劇場のあの広い舞台にその場、その場の中心人物たちがずらっと並ぶ光景は、もう華やかなこと、華やかなこと。これぞ歌舞伎の醍醐味。大向こうさんも大張り切り。他の劇場よりもずっと気合いが入っていたような。

満員。三階席だったので、客席全体がよく見えた。浅草、新橋と比べても、多いように思った。観客の質は一番良かった。驚いた。なぜかを考えてみて、思い当たることが。ひところまで、「退屈」だったというか、華やぎが歌舞伎座ほどにはなかった国立劇場の歌舞伎。去年あたりから、大きく変わって来ている。先月の『東海道四谷怪談』もそうだったけど、今までになかった実験的な演出が多くなってきている。それが知的な層を惹きつけるようになってきたのでは(大阪では文楽劇場がまさにそうで、新しい、若い観客を惹きつけている)。観劇料は歌舞伎座よりも安い。先月取った一等席でも12000円。今日の三等席は2500円。歌舞伎座はこの50パーセント増以上だから、割安。それにこの質の高さですからね。人は来ますよ。