yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『月夜の恋』劇団HIRYU@御所羅い舞座12月9日昼の部

今月の公演は20日夜まで。今日でほぼ半分が過ぎたことになる。普通より10日も短い公演期間。しかも関西圏とはいえ大阪からはかなり離れた場所での公演。決して「絶好」とはいえない条件のもとで、春之介・小寅丸の新体制は大健闘。何よりも、お二人と座員さんたちが「成功させよう」という強い気持ちで一丸となっているところに、感動する。この土・日の出しものも意欲的なものが並んでいる。ウィークデイは仕事等で来られない方たち。その方たちが土・日には詰めかけて来られるだろう。以下に7日から14日までの演目一覧のチラシをアップしておく。
チラシには載ってはいないけど、15日(火)は「小寅丸祭り」。

『月夜の恋』は新作。でも他劇団で良く似た演目を観ている。この劇団では初めてかかったということだろう。ただ主人公の「恋」の解釈と演出が、他劇団とは違っていた。その意味では新しいお芝居といえる。

本来ならお縄になるところを、掏った相手の女の厚情で「島送り」を免れた掏摸の新助。その新助の「恩返し」の顛末を描いたもの。その恩返しが、女を強請にやって来た女の元亭主を殺すことだった。新助は今度こそ捕まってしまう。彼が恩返しにやってきたのは、恩だけが理由ではなく、恋心からでもあった。以下にもう少し詳しい内容を。

料亭嶋田屋の前で仲居頭(美佳)と女中のおれん(あさり)が口喧嘩をしている。楽しい幕開け。お二人ともさすがに上手い!プロローグの役割。二人のけんかの仲裁をしたのは目明かし(小寅丸)と女中のおつた。やっと二人の諍いを収める、

このおつた(明日香)、働き者で情の細やかな女。問題はその亭主(大輔)がならず者なこと。彼女に金をせびっては、それを博打に使っている。その度におつたは店の若旦那に金を手当してもらっていた。今日も今日とて、また無心にやってきた亭主。おつたからお腹に子供ができたと聞かされ、いよいよ彼女と別れる潮時だと判断する。

おつたが若旦那(大和)に掛け合ってみると、若旦那は金の件は承諾。その上で、自分と一緒になってくれといって、引っ込む。途方にくれるおつた。その懐から財布が掏られる。掏ったのは新助という若い掏摸だった。ちょうど来合わせた目明かしに捕まってしまう。それを見たおつたは掏摸に同情、岡っ引きに彼を放免してやってくれと頼む。彼の境涯が自分と似ていると直感したから。彼に自分の財布に添えて簪を与え、「投げやりにならず、改心してくれ」と懇願する。

こここからが、第一弾目のハイライト部。おつた、新助、目明かしの三人が後ろ向きになり、満月を愛でるという趣向。「綺麗な月だなー」といいつつ、岡っ引きは新助に立ち去るように手で合図(観客には手の動きが見えている)。戸惑いながらも、新助は立ち去る。おつたの簪を懐にして。

おつたは若旦那から50両貸してもらい、元亭主に渡す。よろこび勇んで立ち去る男。その横には女中のおれんの姿が。

一年経過。ここで板場役の飛龍さん、仲居頭役の美佳さんとの「かけあい幕間劇」。この一年間の変化が明らかにされる。おつたは若旦那と結婚。子供が出来ていた。そこにやってきたのが、旅姿の行商人。なんでも簪売りだそう。「簪」が重要なモチーフであることが分かる。二人は新助にこの一年のおつたの境涯の変化を語る。おつたが若女将になっていると知り、ショックを隠せない新助。

二人が引っ込んだ後、店の前にやって来たのは、あの目明かし。新助が堅気姿になっているので、最初は気づかない。二人は再会を喜びあう。目明かしは新助をさそって祝杯を上げに行く。

おつたのもとに元亭主がやってくる。すっかり尾羽打ち枯らしている。おつたが嶋田屋の若女将に納まったと聞いて金をせびりに来たのだった。店先でばったりと子供を抱くおつたと出くわす。それが自分の子だと悟った元亭主。おつたに強請をかける。

おつたが引っ込んだ後、床几の上で寝転ぶ元亭主。そこへ目明かしと別れた新助がやって来る。この男がおつたを困らせている張本人と察した新助、この男とやり合い、結局殺してしまう。そこにやってきた目明かしに、捕まる。目明かしの嘆き。

おつたとその夫が店から出て来て、新助を解放してくれるよう懇願するが、今回ばかりはそれを聞くわけには行かない。ここでの明日香さんの熱演、みごとだった。ちょっとした仕草に心のうちを見せるという演技に、おつたの人となりが立ち上がっていた。

目明かしに引いて行かれる新助。それを見送るおつたとその夫。新助の下駄をそろえるおつた。二人の唯一の「交流」。「なぜこんなことをしたんだ」と、目明かし。「俺の心を知っているのは、あのお月さんだけ」と新助。新助は懐から何やら愛おしそうに取り出す。それは一年前、おつたが彼に与えた簪だった。彼はおつたに恩義を感じると同時に恋情を抱いていたのだった。ここのところ、他劇団でははっきりとは描かれていなかった。そこには『一本刀土俵入』にも通じる含みがある。そういや、茂兵衛が「恩返し」にと帰ってきた女の名もお蔦だった。

春之介さんの演技、心に響いた。「(愛する者のための)自己犠牲の美学」とでもいうのだろうか、それを情感豊かに描いて、秀逸。小寅丸さんもそれを受けとめる演技で秀逸。小寅丸さんが絡むと、悲劇が「お涙頂戴」路線でなくなる。複層的になる。最後の二人の演技、他のどの劇団にも真似できない「豊かさ」だった。

終わったあとの休憩時に、いつも最前列に座っておられる年配の男性が、私の隣りの席の方(多分お知り合い)に向かって、「良い芝居だった」と繰り返しおっしゃっていた。そう言わしめたのは、一にも二にもこの情感の描き方が優れていたからだと思う。

今日はカメラを持って行っていたのに、なぜか電池が切れていた。仕方ないので、舞踊ショーの内容と写真は断念。

<追記・訂正>
ツイートして下さった方から、おつたの簪は彼女の頭から滑って落ちたのを、新助がこっそりと拾ったものというご指摘をいただいた。目明かしからも隠すようにして。腑に落ちた。「秘めた恋」。その方がずっと情感が深くなりますよね。ありがとうございます。