yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『デイリースポーツ』見出し「羽生結弦が来季フリー「SEIMEI」を初披露…『演じられるのは僕だけ』」

この記事は6月12日(金)20時51分配信分。内容は以下。

世界王座奪還を狙う来季、“氷上のプリンス”が選んだ勝負曲は、映画「陰陽師」の劇中曲「SEIMEI」だった。

「来季何か挑戦というか、幅を広げてみようかなと思った。海外の方も見れるものがいいなと思って。まずここまで和なプログラムを演じられるのは今の日本男子でたぶん僕だけ。僕だから出せる繊細さ、和の力強さ、線の使い方で、僕らしいプログラムになればと思う」。

逆襲のシーズンに、エキシビション以外では初となる和テイストのプログラム。白装束風の衣装に身を包み、天才陰陽師とされた安倍晴明を演じた。
(中略)
振り付けは昨季の「オペラ座の怪人」と同じシェイリーン・ボーン氏。「シェイリーンとは狂言や能をみたり、色々調べながらつくった。そういう日本らしい動きも取り入れていけたら」と、さらなるバージョンアップも視野にいれた。

もう一つ、『日刊スポーツ』の記事は以下。

羽生結弦「陰陽師」和笛と太鼓響く新プログラム発表
『日刊スポーツ』[2015年6月13日9時17分 紙面から]

氷上の陰陽師(おんみょうじ)になる−。フィギュアスケート男子でソチ五輪金メダリストの羽生結弦(20=ANA)が12日、横浜市内で開幕したアイスショー「ドリーム・オン・アイス」に出演し、来季のフリーを初披露した。選んだのは、平安時代に活躍した安倍晴明の伝奇小説を映画化した「陰陽師」の劇中曲。タイトルは自ら「SEIMEI」と名付けた。「自分の幅を広げてみたかった」と、競技では自身初の和風プログラムを演じる。
 狩衣(かりぎぬ)をイメージした衣装もさることながら、動きのイメージにも日本の伝統を取り入れる。能や狂言を研究し、「姿勢をぶらさずに流れる、歩くことが多い。その滑らかさはスケートに通じるものがある」と目を輝かせた。スピード感あふれる氷上の滑りに、また一味違ったテイストを持ち込みそうだ。
 構成は、昨季はケガで断念した3回の4回転ジャンプを入れたものになる。この日は失敗が続いたが、和笛と太鼓の音が響くプログラムは新鮮さにあふれた。「僕だからできる繊細さ、和の力強さを見せたい」。世界王者返り咲きを狙う新シーズン。リンクの上を「和」で染める。【阿部健吾】

この記事には印を切る彼の写真も載っているので、リンクしておく。

アイスショーで披露された彼の演技、ショートバージョン、しかもちょっと不完全な映像ではあるけど、一応youtubeでみることができる。リンクしておく。

わずか数分の演技を観ただけでの判断は性急かもしれないが、骨子の部分というか、彼がなにを狙っているのかが多少なりとも判った気がする。音楽もそうだけど、映画の『陰陽師』を参考にした箇所が多かったように思う。

映画、『陰陽師』(2001)は公開時にではなく、その数年後にアメリカで観た。平安朝の歴史的、宗教的背景を知るための教材として使われていた。学生は怪奇現象を扱ったもの、あるいはホラー映画に近いものとして受けとめていた。一昨年、歌舞伎の『陰陽師』を観たが、映画とはずいぶんアプローチが違っていた。当時の政治とそれに絡む複雑な人間模様を描いたものだった。とても人間臭かった。

今回の羽生結弦さんのはそれらとは切り口がまた違い、晴明個人の心理面の葛藤により焦点が合わさっていた。陰陽師の家に生まれ、非凡な才能をもってしまったがために、直面しなくてはならない現実(と非現実)。それはこの世のものでもあると同時にあの世のものでもある。その二つの異相間の往来で触発され、その結果として出てきたものに解釈を施して人に伝える。それが陰陽師としての彼の職務だから。理で伝えるのはまだ簡単かもしれない。しかし彼が伝えようとしたのは、理では捉えきれない宗教的なもの、秘密、密約のようなものなのだ。それを一つの表現体として表すには舞踊がもっとも相応しい。巫女の舞もそれに当たるだろう。能の舞もそれに近いかもしれない。祝詞や声明のようなものもその媒体になりうるだろう。ギリシア悲劇のコロスを思い浮かべればいい。

羽生結弦さんが一貫して伝えたいのは安倍晴明の崇高なまでの非凡な才と、それがゆえに人間界と魑魅魍魎とを媒介せざるを得なくなってしまった重さ、辛さのようなものなんだろう。「オペラ座の怪人」もそうだった。今回の『陰陽師』も然り。

羽生結弦さんが今回参考にしたのはもちろん、選曲もそうだったように映画『陰陽師』中の野村萬斎の「舞」だろう。ありがたいことに、この「舞」もyoutubeに載っている。リンクしておく。

腕のあげ方、払い方、印の切り方はかなり萬斎さんのものに近い。萬斎さんの舞もまるでスケート演技のようにもみえてしまう。羽生結弦さんがここに目をつけたのも宜なるかな。とうより、非凡な才が非凡な才を呼んだんでしょうね。ジャンプ、回転もより一層高い難度のものに挑戦。それでいて、どこか今までとはひと味違うような。特に緩急の付け方がよりドラマチックになっていた。「なんて滑らかな優雅なスケーティング!」と思った次の瞬間、猛烈な激情表現が迸り出て、度肝を抜かれる。彼の「オペラ座の怪人」もドラマチックだったけど、「陰陽師」はその上を行っているように感じた。精神的なめざましい成長をそこに確認できたように思えて、うれしい!これからもっと時間をかけて、より磨きをかけてゆき、彼個人のものにしてゆくに違いない。

衣装は『日刊スポーツ』の記事にあるように平安期の貴族の正装の一つ、狩衣を模したもの。上着の脇の付け根にスリットが入り、ウエストラインが絞ってあるので裾が広がっている。袖口には狩衣では「袖括り」と呼ばれる紐と同様に、紐をが付いている。その紐の色は当時は年齢に応じたものだったそう。彼のものは鮮やかな萌葱色で若さを象徴している。

ショーを見終わった観客へのインタビューがおかしかった。彼の新しい挑戦に驚かれた様子。「王子さまって思っていたら、牛若丸!」とか、「みなさん魂を抜かれたままお帰りに」とかいうコメント、とてもかわいくて、楽しい。羽生結弦さんのファンたちって、なんでこんなに表現の豊かな方が多いの?