yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『Walk oN〜さあ、新しいキミに会いに行こう〜』@ABCホール6月2日

以下は作品サイトから。

作 :天乃 純
演出:西村雅彦・大木玉樹

出演:西村雅彦 石井智也 古原靖久 上地春奈 鈴木杏樹
   加瀬竜彦 川口真五 北嶋テツヤ 竹匠 中山夢歩 深来マサル

美術:中根聡子 照明:佐藤公穂・高橋英哉 音楽:長山善洋 音響:秀島正一
衣裳:伊藤早苗 ヘアメイク:冨田武雄 振付:ヤマザキマリ 舞台監督:松井啓悟
制作:吉本麻子 宣伝美術:岡田成生 票券:インタースペース
トランポ:加藤運輸
企画製作:井口淳

夢よりも現実の中で必死に生きてきた男。夢など忘れ達成感のない日々を過ごす青年。
そんな2人が出会い、小さな旅をはじめる。
行く先々で巡りあう不思議な人々。男の妻、娘、彼女たちの見つめる先には・・・・
選択次第で人生は変わる、いくつになろうと変えられる。勇気をもって彼らは歩き出した。

続いて、毎日新聞掲載の紹介記事。

◇“夢”追い続ける50代男
 自身がプロデュースする演劇公演を2002年にスタートさせ、ほぼ毎年、新作の上演を続けてきた。その最新作「Walk oN!」(脚本・天乃純さん)で、ある“夢”を追い続ける50代の男を演じる。「人は年と共に夢と希望をどこかに置いてきてしまいますが、新しい一歩を踏み出せば、見つめる先に希望の光はある。そのことを、この作品を通じて思い出してほしいと思います」
 西村さん演じる中年の男が、道ばたで倒れかけている青年と出会って物語が始まる。青年は生きることに絶望していたが、男との出会いで変わり始める。「舞台をプロデュースする時は、悪人が一人も出ないように意識しています。今回も登場するのは普通の人たちばかり。彼らの姿から、人生について何かを感じてもらえればうれしいです」
 今回は6年ぶりに演出も自身の手で行い、男の妻役として、女優の鈴木杏樹さんが初舞台を踏む。「鈴木さんは理詰めで作品に向き合う方。舞台の空気に染まっていない方がいると、作品の別の面など、いろいろな発見があります」
 三谷幸喜さん率いる劇団「東京サンシャインボーイズ」で活躍し、劇団の活動休止後も、映画やテレビへの出演と並行して舞台に立ち続けてきた。多くの人に舞台の魅力を知ってほしいと、自身が企画する作品では必ず地方公演も行う。今回も北海道から九州まで約20カ所を回る予定だ。
 「地方公演は毎回が勝負で、ある地域で受けたことが、次の場所で受けるとは限りません。我々は舞台に立ってやれる限りのことをやるだけで、その結果、一人でも多くのお客さんに見てよかったと感じてもらえれば何よりです」【関雄輔】

以下にざくりとしたあらすじを。

主人公は経営学の著書もある有能な会社員の50代の中年男、遠藤満作(西村)。人事のリストラ係をやってきたのだが、ほとほと嫌気がさし、今日会社を辞めた。もう一人の主人公は順風満帆にサラリーマン生活を送ってきたものの、何の変化もない自身の未来に絶望、自殺しようとしている30歳の山田正という若い男(石井)。二人の出逢いが、それぞれの生活を、そして人生をあらためて考えなおすきっかけとなる。遠藤の妻(鈴木)と娘もしかり。とくに妻は自分自身の夢を思いだし、新たな道を歩み始める。山田も高校時代の友人と友情を復活させ、彼のバンド仲間との交流を通して生き甲斐を見いだして行く。遠藤はかって自分がリストラした部下と再会、彼らに自身の家を提供、喫茶店を開く。

大切な人たちの生活、人生を巻き込みながら、その一人一人が自身を行かせるようになって行くのを見届けた遠藤と山田は二人で海外(ジャカルタ?)へと旅だって行く。嬉々として。新たなる生き方を求めて。

ユートピアっぽくて、途中しらけてしまうところが無きにしもあらずだったのだが、ある種のまとまりはあった。こういう筋書とオチとを求めている人が多いんだろう。その綻びのなさが、逆に問題だとはおもうんですけどね。

「悪人を登場させない」という西村氏のことば通り、いわゆる悪意のある人は登場しない。でもそれがゆえに、どこか嘘っぽさが残る。「彼らの姿から、人生について何かを感じてもらえればうれしいです」という期待が大いにあることは推察できるけど、それが果たしてどれほど実現できていたか。登場人物の中に人生を感じることは、私にはなかった。リアリティがなかった。こういう普通の芝居の怖さだと思う。リアリティそのものを虚構の世界で描くとき、そのままありそうな人物、プロットを適用すると陥る陥穽にはまっている。当人達はそれをわからないんだろうけど。

リアリティそのものを日々生きている(生きざるを得ない)観ている人間にとって、こんなありきたりのリアリティは嘘っぽくしか映らないだろう。リアリティというは「現実の生活」ではない。あるいはその延長線上にある現実の「改善」でもない。普通はこの「改善」は「夢」ということばで語られるんでしょうけど。こういうオチの付け方、歓迎する人が多いのかもしれない。中年以降の人たちは自身にまだなにがしかの再出発の可能性をみたいから、中年以前の人たちは自身の未来の姿を主人公たちに見いだして、こういう穏やかな、そして「夢」のある未来を歓迎する。でも実際には心かき乱されることはなく、人生も今のまま続けて行くんだろう。

西村さん、鈴木さん、石井さんたちはそれぞれすでに有名人で、登場人物のリアリティから外れている。どこか嘘っぽかったのはそこに起因しているかも。他の登場人物の多くはミュージシャン、ダンサー?彼らの方がリアリティを出せていたように思う。それは恐らく生活の質が有名人とは違うからかだろう。ここしばらくいわゆる小劇場系の芝居、ショウをいくつか観てきたが、リアリティ度はこの芝居よりはるかに高かった。観ていて心が動揺した。

動揺しないという点で、新歌舞伎座にかかるような、そんな芝居を連想させた。さきほども書いたけど、ターゲットは主として中高年の女性・男性だったのだろう。その人たちは満足したかもしれない。女性は鈴木杏樹さん演じる美しい妻が「自分探しの旅に出る」姿に自身をアイデンティファイして。男性は「猛烈サラリーマン生活」を脱した男に自分の夢を託して。

とういことで、観客は中年男女が圧倒的。そこにちらほら30代らしき女性が混じっている。驚いたのはホールのロビー内と外に大勢の人がたむろしていたこと。多くが女性。有名人を出迎える雰囲気。福島駅に行く道中、年配女性のグループを二つ抜けて行ったのだけど、それぞれ5、6人のにぎやかな集団。ここでも新歌舞伎座の観客を思いだした。