yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

羽生結弦選手@バルセロナ・グランプリファイナルSPの演技

2014年12月12日から13日まで開催された「バルセロナ・グランプリ。中国での怪我から一ヶ月後に羽生結弦さん、もう滑っていたんですね。そのプロフェッショナルとしての気概に胸撃たれる。しかも世界フィギュアスケート選手権、ソチ・オリンピックよりも、何段階も進化したスケーティング。技術的にはもちろんそううだけど、芸術的なセンスがより磨かれた演技にただ、ただ圧倒された。あんなにも人々を感動させたNHK杯のEXでの「花は咲く」もその延長線上にあったのだと、納得。どこまでも進化しつづける羽生結弦さん。まさに日本の誇りであり、宝だろう。

このバルセロナでももちろん優勝した。ありがたいことにyoutubeでもその演技がみられる。いずれDVDになるんでしょうね。そう願います。youtubeでのタイトルは「2014 GPF SP & FS + Prologue ver.2」となっているので、リンクしておく。アップして下さって、ありがとうございます。4分過ぎのところからが該当SPの演技になります。

フリーの「オペラ座の怪人」もそうだけど、このバルセロナでは、彼自身の好みのかなり入った選曲になっているように思う。SPの曲はショパンの「バラード第一番ト短調」。クリスティアン・ツィマーマンの演奏。振付けはジェフリー・バトル

選曲がショパンの「バラード」というのがニクイ。二十歳そこそこのショパンがパリ滞在中に作曲したという。羽生結弦さんはパリにかなりの拘りがある(?)。ショパンの曲中でも後期のあのどこまでも落ちて行くような暗さ、重さはあまりない。若いショパンの瑞々しい感性の方が前面に出ている。この曲が書かれたとき、パリに異邦人として滞在していたショパンは、母国ポーランドでの独立の蜂起が挫折したことを知った。夢破れて、失意の中にあった。中途からのなにかせき立てるような、強い思いのこもった激しい曲調は、彼の抑えきれない激情を表象しているかのよう。羽生結弦さんはそこに強く惹かれたような気がする。羽生結弦さんがショパンのたたみかけるようなメロディに演技を乗せるとき、緊密なシンクロニシティを感じる。彼自身の(あの事故を含む)経験がこういう形で昇華されたのだろう。

羽生結弦さんの演技は強い想いを具象化しようとしたもの。最初の4回転ジャンプ。高く素晴らしい。会場から悲鳴のような歓声が。優美な身体の線。腕で自分を抱きすくめるような仕草が優しい。なめらかな円を描く滑走。優雅なシット・スピン。今度は加速度を付けて。そこから上体を起こしての早いスピンへ。次第により速く、激しくなる。Tスピンの変形?羽生選手の得意技。華麗。続いてのリフレイン部、曲調が変化、テンポは一旦遅くなる。そこでジャンプが入る。徐々に感情の高まりがある。ついにクレッシェンドへ。ここで2回ジャンプ。

テンポがさらに上がるとそれに合わせて、演技もよりダイナミックな動きになる。上体、腕、足の全身を使った滑り。耐え難く優美。今まで以上の多種多様な振り付け。ところどころでまるで天を希求するかのように跳び上がる身体。弦に結わえてある弓矢、でもなんとか上へと飛翔したい。そんな憧れが伝わってくるよう。フィナーレはシット・スピンから上体起こしのドーナッツ・スピン、次にピールマン・スピンへ。速さと優美さが一対になってドラマチックに展開する。若々しい魂の叫び。そして!最後に天使の笑顔。

リリシズムとパッションのみごとな融合。ピアニスト、(まだ二十代だった、そしてショパンと同じくポーランド出身の)ツィマーマン最高峰の演奏と称せられる演奏と二十歳のアーティスト羽生結弦の演技の競演。ぴたりと合っている。一部の隙もない両人の合作。二人の若い繊細な感性が解け合って、これ以上の競演はみられないだろう。歴史に刻印を押すような稀有な時間を紡ぎ出してくれる。

このショパンのバラードのリリシズムとパッションをここまでの完璧なレベルで醸し出せる演技者は、おそらく羽生結弦さんをおいては他にいないだろう。もっとすごいのは、この曲の麻薬的ともいえるロマン的詩情、感傷に溺れていないところ。リリシズム、パッションの背後にある、ショパンの危機感を正確に把握し、演技として表しているところに彼の高い知性を感じる。それも他のスケーターにはなかなか見当たらないすばらしさ。

ショパンのバラードは私としてはポリーニのものが好きだけど、若々しさ、繊細さではツィマーマンの演奏の方が羽生結弦さんに相応しいだろう。選曲のあまりにもの的確さにも舌を巻く。