yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

『ツキガケノモリ』 by 「満月動物園」劇団@應典院12月28日

内容が最近の私自身の関心事とコレスポンドしているようでちょっとそら怖ろしくなる。このお芝居のテーマは「祈り」だろう。劇団の解説にもあるように【亡くなった方は、(あの世で)幸せであって欲しい】と願うこころとでもいうべきか。ここしばらく、出会うお芝居や演技がこの祈りのこもったものになっているのも、とても偶然とは思えない。歌舞伎座でみた『幻武蔵』、「二人椀久」がそうだった。羽生結弦選手の「花は咲く」のスケーティングもそう。この「花は咲く」は岩井俊二が作詞を手がけたもので、「震災で亡くなった方々の目線で書いた」と彼自身が語っている。

以下は劇団のサイトから収録させていただいた「配役」と「解説」。

演出・脚本  戒田竜治

配役
澳      片岡百萬両
死神     河上由佳
濤      諏訪いずみ
湊      みず
疫病神    高島奈々
自殺魂    西原希蓉美
浮      原典子/丹下真寿美

解説
満月動物園が2014年に15周年を迎えた記念にお届けする、死神シリーズ[観覧車編]5タイトル連続上演の第1弾『ツキカゲノモリ』。初演は2009年、会場は同じシアトリカル應典院、もともと単発の作品として上演された作品がシリーズ化するキッカケは、満月動物園×片岡百萬両の出会いがもたらした予想外の化学変化でした★
まったく色合いの違う両者が織りなした独特の世界観が、圧倒的な支持をいただき、その後の『ツキノオト』(2010年)、『ツキノウタ』(2012年)、『ツキシカナイ』(2013年)と上演する死神シリーズにつながっていきました。
架空の観覧車倒壊事故という大惨事をモチーフにとりながら、おせっかいな死神が人間たちによりよく生きろと、彼らなりに奮闘するコミカルな語り口と、【メルヘンで優しくて、ハード】と謳う満月動物園の世界観がマッチした作品群の、はじまりはこの『ツキカゲノモリ』です。今、15周年を迎えるにあたってぜひお客様にもう一度お届けしたい作品たちです。

2009年から現在にいたる死神シリーズ[観覧車編]は、その間に発生した東日本大震災でそのテーマに大きな影響を受けざるを得ませんでした。架空の観覧車倒壊という事故は、多数の死傷者を出す事故で、予期せず奪われた命ひとつひとつの物語は、大規模災害の被災者の方々への恢復の祈りでもあります。
【亡くなった方は、(あの世で)幸せであって欲しい】というのが、満月動物園の基本的な祈りの姿勢です。そして、これから本格化するであろう心の復興により多くの祈りの眼差しを向けていきたいと思います。
2015年に阪神淡路大震災から20年を迎える阪神地域から発信する『突然の別れ、理不尽な運命』の物語は、改めて命の尊さと当事者の痛みに思いを向ける恢復の物語です。

観覧車倒壊という大事故で奇跡的に生き残った主人公の男は、落下するゴンドラの中に現れた死神と魂と引き換えに命を助けてもらう契約を結びます。
助かったとはいうものの、それから死神はずっと男の側を離れない。「いいこと」を言ってるんだけど、あまりにおせっかいすぎて、ゆっくり考え事も出来ない。一緒に観覧車に乗り合わせ、亡くなった恋人の事を思う時間もとれない。死神いわく『よりよい人生を生きろ。そうすれば魂が高く売れる』
結ぶしか選択肢のなかった契約とはいえ、やることなすこと口出ししてくる死神にうんざりしながら、男は自分の人生を見つめ直すために、遠く離れた故郷に旅立ちます。もちろん死神もついてきます。

こころ優しい「死神」が最後に吐露した主人公への深い愛情に、私の前の座席の男性も左右席の女性たちも泣いていた。私ももちろん。小劇場のお芝居は敬遠してきたのだが、数ヶ月前から観る機会があり、私の十年以上前の記憶とのギャプに喜んでいる。「実験」の度合いが激減、誰が観ても楽しめるような工夫が随所に施されていた。だから、観劇後の「涙」もカタルシス的なもの。死を生と同じ位相で捉えているため、ともすればセンチメンタルになりがちな死者への想いが表層的な悲しみで終わらない。『ツキガケノモリ』というタイトルは、深層意識を表象しているのだろう。どこまでも広がる深い闇、それと同時にかすかではあるけど確かな光がほのみえる。そのタイトルからもその内容は明らか。

舞台装置、照明もその内容に合ったものになっていた。幕もなにもない舞台。照明はすべて床上で、まだ天井に揚げられていない。芝居が始まり、それらが天井に上がっても、ほとんど使われない。終始、薄暗い闇の中で話は進行する。なにもない舞台。唯一の例外は木製の格子を組み合わせたビールケース大の箱。それが7、8個あって、状況に応じて組まれたり、積み上げられたりする。

劇団による解説を読み込めば、阪神淡路大震災以降に立ち上げられたこの劇団の主旨のひとつが震災で亡くなった人たちへの鎮魂にあったと思われる。そのあと、あの東日本大震災があったわけで、劇団員の思いはより強くなって行ったに違いない。他の劇団にはないこの劇団の独自性、路線がそこに窺える。演目が「ツキ(月)」シリーズ、「死神」シリーズとなっている劇団独自の路線。でも劇団名は「満月動物園」なんですよね。劇団も、そしてその周囲もいつかはフルムーンになることを希望しながら活動しているという、劇団の在り方を示しているようで、これにも泣ける。

こういう繊細さはやっぱり若い女性のものだと思う。脚本・演出(戒田竜治)もそれを踏まえてのものだっただろう。舞台に登場したキャストは全員細身の若い女性。なぜか(!?)美人ぞろい。そこにイケメンとはほど遠い(スミマセン)ゲストの片岡百萬両さんが入る。これもみごとに組み合わせの妙。ただし、彼は最後までイケメンには見えませんでしたけどね。コミカル度を上げる、オカシ味を醸し出すには大成功だったでしょう。イケメンは、この劇団の掲げるお芝居の主旨にはそわないかもしれません。