yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

通し狂言 『夏祭浪花鑑』七月大歌舞伎@歌舞伎座7月14日第一部

以下松竹の「歌舞伎美人」サイトから。

お鯛茶屋

住吉鳥居前

三婦内

長町裏

団七内

同屋根上


<配役>
団七九郎兵衛:海老蔵
三河屋義平次:中車
一寸徳兵衛:猿弥
琴浦:尾上右近
お梶:吉弥
玉島磯之丞:門之助
おつぎ:右之助
堤藤内:家橘
釣舟三婦:左團次
お辰:玉三郎


<みどころ>
夏の大坂の風情があふれる義太夫狂言の名作
 
和泉国浜田藩家臣、玉島兵太夫の子息磯之丞は、堺お鯛茶屋で恋仲の傾城琴浦と遊蕩にふけっています。そこへ、放蕩の磯之丞を連れ戻して欲しいと頼まれた魚屋の団七九郎兵衛女房お梶がやって来て、一計をめぐらします。
 

団七は、喧嘩の罪で入牢しましたが、玉島兵太夫の取りなしで出牢を許されます。住吉鳥居前で、団七は俠客の釣舟三婦と再会すると、そこに磯之丞と琴浦が逃れてきます。団七はその危急を救おうとしますが、一寸徳兵衛が立ちはだかり、争う内にお梶の仲裁によって、互いの主筋が玉島兵太夫であるとわかると、義兄弟の仲になるのでした。
 

誤って人殺しを犯した磯之丞は、琴浦と共に三婦の家に匿われていました。そこへ徳兵衛の女房お辰が訪れ、磯之丞を預かることを申し出ます。三婦は、お辰の若く美しい顔を見て、間違いがあってはと難色を示しますが、お辰は意外な行動を取ります。
 

一方、金に目がくらんだ団七の舅三河屋義平次は、琴浦を連れ出します。この悪事を知った団七は義平次を追いかけ…。
 

今回は、役柄の人物像がより鮮明になる通しでの上演。盛夏の大坂を舞台にした義太夫狂言の名作をお楽しみください。

文楽でのみ「通し」で観たことがあるが、歌舞伎では初めて。ただし義太夫版の二段目、四段目、五段目が省かれていた。筋でも省略されたところもあり、また台詞もかなり義太夫版とはちがっていた。それにしてもこの歌舞伎版、「通し」でみて初めて得心できるところも多々あり、目が開かれた感じがした。

番附けによると、海老蔵は「団七」を教わりにアリゾナに滞在中の勘三郎の処まで押し掛けたのだという。そういえば勘三郎自身が芸談の中にそう書いていた。勘三郎の上方弁はほぼ完璧だったけど、海老蔵のものはところどころ綻んでいた。それでも「よくぞここまで」のレベルで、感心した。ものすごい意気込み。気合いの入り方が違っていた。

対する義平次役の中車も良かった。これは予想通りだった。平成中村座では笹野高史が演じていて、それに近かった。おそらく中車は笹野を参考にしたのだろう。この役は古典的というより、むしろ現代演劇のワル役に近いから、そちらの芸歴の長い中車にも無理がなかったのでは。戯画化しすぎているところはあったかもしれないけど、それによって義平次の単なるワルではない、ちょっと抜けたところも出せていた。

海老蔵のすっきりと水際立った男前ぶりと中車の濃いドーランを塗った上に皺を幾筋も書き込んだ顔とがみごとな対比になっていて、これはやっぱり実舞台でみるものなんでしょうね。団七と義平次が争う場面で、中車が海老蔵の顔を覗き込んで「ええオトコ(前)やナー」なんて(感に堪えかねたように)いうところなど、実にリアルだった。

一寸徳兵衛の猿弥は海老蔵と並ぶと同輩というより、かなり先輩という感じで、それが難といえば難。芸風もちょっとおっちょこちょいの徳兵衛というより、もっと老成した感じがしていた。当然ですけどね。

最後の「泥場」と並ぶハイライト場面であるお辰が焼きごてを顔に当てる場面も見応えがあった。なんといっても玉三郎。ちゃきちゃきのオトコマエの女、それもすごい美貌の女が自らの顔に印を押すなんて、イキさのなかにどこか淫靡な匂いがしませんか。こいういうのをパーフェクトに説得力をもってやれるのはやっぱり玉三郎くらいでしょう。

三婦役の左団次もその玉三郎と張り合って良い勝負だった。自家薬籠中の役だからに違いない。この人が脇で出るとその安定感が舞台全体に波及する。猿弥の場合もそうなんだけど。この二人が出ているおかげ(?)で、舞台がずっしりと決まっていたように思う。