yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

旬な青春映画『いま、輝くときに』(The Spectacular Now)@Ritz East 9月14日

ソサイエティヒルの小さな芝居小屋でマチネで If I Were A Drag Queen, I Would Be Famousという刺戟的な芝居を観たあと、歩いて2nd Street のRitz Eastまで行った。フィラデルフィアのダウンタウン(といってもどちらかというとソサイエティヒルに近い東よりだが)には3軒のRitzのシネコン映画館があり、どこも新作の「芸術度の高い」映画を上演している。まず外れがない。しかも日本公開のないものが多い。で、この日もどれといって映画を選ばず、すぐに観れるSpectacular Nowを選んだ。だから前知識まったくなし。

結構人が入っていて、それも若い人が多かったので驚いた。映画に来るのは割引があるシニアが多いと、アメリカでも相場が決まっているのだ。観てみて納得。Spectacular Now (Trailerをリンクしておく)は高校生が主人公の映画だったから。以下が映画公式サイトからの宣伝写真。

有名な映画評価サイトRotten Tomatoesでみると、なんと!91%の支持を受けていた。あの名作、Brokeback Mountain ですら87% なのに(ちなみに、2011年に賞を総なめしたTree of Life が84%)。Rotten Tomatoes掲載のMovie Information は以下。

With sly humor and an intensity of feeling, THE SPECTACULAR NOW (directed by James Ponsoldt) creates a vivid, three-dimensional portrait of youth confronting the funny, thrilling and perilous business of modern love and adulthood. This is the tale of Sutter Keely (Miles Teller), a high school senior and effortless charmer, and of how he unexpectedly falls in love with "the good girl" Aimee Finecky (Shailene Woodley). What starts as an unlikely romance becomes a sharp-eyed, straight-up snapshot of the heady confusion and haunting passion of youth - one that doesn't look for tidy truths. The film was written by Scott Neustadter and Michael Weber (500) DAYS OF SUMMER and also features wonderful supporting turns from Brie Larson, Kyle Chandler, Jennifer Jason Leigh, and Mary Elizabeth Winstead.

どこにでもいるような「高校生の男の子と女の子の出逢いと恋愛」、彼らが抱える「漠然とした将来への不安」といったユニバーサルなトピックを、淡々としたタッチで、それも愛情をこめて描いていてスグレモノである。ユーモア、そこにさりげなく挿入される皮肉とが、すべてうまくからみ合って、深刻になる一歩手前で踏みとどまり、それがなんともいえず繊細。でもどこか確かな手応えがある。

アメリカで高校生活を送った人のだれもが経験するであろう、学校行事をはじめとする様々なイベント、学業と社交との両立、そして恋愛が、田舎町を舞台に繰り広げられる。だから画面で展開する場面のひとつひとつが観た人自身の経験とオーバーラップするから、当然評価は高くなるのだろう。まさに「人ごと」ではなく自分自身の経験として観れるから。

パーティ三昧の高校生活、単位がとれずに卒業できるかどうかといった悩み。アルバイト。そしてなんといっても高校生活の最大行事のプロム、そして卒業式(アメリカの高校生活がどんなものかを知る手引書にもなるなんて考えるのは私の教師根性)。

映画はSutterが大学に応募するためのエッセイを書くところから始まる。パーティ三昧男のSutter、当然成績は悪い。大学へ進学するといっても、将来へのビジョンが描けている訳ではない。その結果、酒に溺れる毎日。彼は美人で人気者のガールフレンドにも愛想を尽かされる。ふてくされ、深酒して人の家の庭で寝込んでいたところを、その家の娘Aimeeに起こされる。それが、二人の出会い。同じ高校の同級生だったし、Sutterは遊び人として人気者だったのでAimeeの方はSutterを知っていたが、彼の方は彼のつきあっているパーティ人間たちとはまったく違う地味なAimeeを知らなかった。Sutterが数学の単位を取れないかもしれないということで、Aimeeが彼の個人教師をしてくれることになり、二人は行き来をするようになる。ここの彼女の家の内部描写が秀逸。裕福ではない。

Sutterは今でも前のガールフレンドが忘れられず、彼女に出くわすたびに未練たらたら。日本のマンガ、アニメが好き、SF小説が好きといったブックワームのAimeeはそれでもイヤな顔ひとつせずに、彼を助ける。Aimeeの夢はフィラデルフィアの大学に行くことだった。成績の良かった彼女は既に入学許可ももらい、奨学金ももらえることになっていた。将来の夢をSutterに語る彼女に、その真摯な生き方にSutterは次第に惹かれて行く。そして、二人は結ばれる。

ハイライトは二人でSutterの父を訪ねるシーン。彼と姉は病院の看護助手をしている離婚した母に育てられたのだ。母は彼を父親に会わせまいとしている。結婚して裕福な生活を送る姉も彼を父と会わせまいとする。その理由が分ったのは、飲んだくれ、博打にあけくれている父、家族に対する責任感ゼロの父に会って、その実態を知ったときだった。自分も父のような人生の敗残者になるかもしれないとおびえるSutter。同行したAimeeはそんな彼を慰めるが、それすらも煩わしい。車で帰宅する途中、SutterはAimeeに「なんでこんな僕に優しくできるんだ!」と言って彼女を車の外に追い出す。そこへ別の車が。ブレーキの音と悲鳴があがる。

Aimeeの怪我はマイナーなもので済んだ。自分がダメな奴だという認識を益々深めたSutter。Aimeeとの距離をとるようになる。そんな彼を母は抱きしめて、「あんたはお父さんとはまったく違う。あんな無責任男ではない」と慰める。

SutterとAimeeは卒業した。でもSutterは「条件付きの卒業」。いよいよAimeeがフィラデルフィアに出発する日。バス停でAimeeを見送ることになっていたSutter。でも彼はいつまでたっても来ない。彼は停留所の脇を車で通りながら、出発時刻ぎりぎりまで彼の携帯に電話し続けるAimeeの姿をみていた。

仕事に精を出そうとするSutter。でも何かが違う。心は空虚。酒に溺れ失態をくり返したので仕事も首になってしまう。でも、大学応募のエッセイは書き終えることができた。それで何かが彼の中で変り始めていた。車を飛ばすSutter。彼は大学の校舎の前に立っていた。Aimeeが正面の校舎から出てきた。Sutterを認めて、一瞬彼女の表情がフリーズする。でも次の瞬間、にっこりと笑う。美しい笑顔(このとき観客から拍手)。

Sutter役のMiles TellerはどこかFBのザッカーバ―グに似ていた。ハンサムとはいえないけど、一見軽めの、それでいて傷つきやすい繊細さをもったこのSutterをリアルに演じてみごと。もっとみごとだったのはAimeeを演じたShailene Woodley。読書家で、みかけはぱっとしない地味な女の子を魅力的に演じて、この映画の良さは80%は彼女の演技とその魅力に負っていると思う。力のある、これから益々将来が楽しみな女優さん。彼女のスマイルには絶大な癒しの力があった。彼女の友人たちは遊び人Sutterと彼女がつきあうのを快く思わず、「どうかあのスウィートなAimeeを傷つけたりしないで!」と彼に懇願するほど。それが十分に納得できる、そんな優しい笑顔だった。

コメディタッチのところが随所にあって、それがこの映画のステキなところ。それに一役買っているのが、ウルトラ級にマジメな数学教師を演じた黒人俳優。Sutterとのやり取りが笑わせる。さらに笑わせられるのが、Sutterの元ガールフレンドの新しいボーイフレンド。生徒会会長、そしてフットボールの花形という彼が、(黒人ということもあって?)どこか自信なげに(海千山千の)Sutterとかけあうところもおかしい。Sutterの友人の男の子もファニー。なによりも、Sutter自身が変なやつで、おかしい。

大人へのイニシエーションという普遍的なテーマなので、日本でも近々公開されるだろう。

行き帰りの飛行機の中とこれで計7本の映画を観たが、この映画が一番良かった。