yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

カンバーバッチ主演 テレビドラマ『シャーロック』(Sherlock)by BBC

2012年から13年にかけて、NHKでも放映されたようである。残念ながら見逃している。hulu経由で第一話と第二話の途中まで観た。あと、なかなか時間がとれない。というのも、みるのにかなり「覚悟」の要るドラマだから。英国のグラナダテレビのジェレミー・ブレット主演の『シャーロック・ホームズ』をずっと前にDVDでみたことがあり、同じような形式を採っていると想像していたら(つまり時代は、19世紀末、ビクトリア朝末期、場所は「切り裂きジャック」の出没していた陰鬱なロンドン)、まったく違っていた。最新のテクノロジーを駆使した現代版シャーロックである。近未来的とでもいうべきか。シャーロックがまるでサイボーグのようだから。でも、ロンドンの街の裏通りなどは、現代と過去とのハイブリッド態、不思議な空間を創りだしていて、まずそれに圧倒される。さすが、イギリスのドラマだと思わせる。フューチャリスティックな無機質性と人間の業の凝縮した有機性とが、辛うじてバランスをとりながら共存しているとでもいうべきか。

ベネディクト・カンバーバッチがシャーロック、マーティン・フリーマンがワトソン。以下、公式サイト掲載の二人の写真。


設定は原作とは多少変えられているが、人物像はそのまま。シャーロックは原作では麻薬中毒、しかも喫煙家だが、カンバーバッチ版は麻薬はやっていないし、ニコチンパッチを貼って禁煙中ということになっている。頭脳明晰、そしてエゴイストである点は原作を踏襲している。ただ、エキセントリック度では原作のシャーロックを超えているかもしれない。

原作と変えられているのが、IT武装しているところだろう。この番組のサイトでは「シーズン1では使用するスマートフォンがBlackBerry BoldでパソコンはVAIOであったが、シーズン2ではiPhone 4とMacBook Pro」と説明が入っていた。まことに念の入ったことではある。シーズン1が2010年7月25日 - 2010年8月8日の放映、シーズン2が2012年1月1日 - 2012年1月15日の放映なので、2011年10月に亡くなったスティーブ・ジョブスに敬意を払ったのかななんて、憶測してしまう。そのエゴセントリックぶりにおいて、このシャーロックはジョブスを思わせるから。以下がスタイリッシュなカンバーバッチのシャーロックを公式サイトの写真より。


いちばん印象的だったシーンはタクシーを追いかけるシーン。シャーロックの頭の中にロンドンの地図と、交通情報が図になって示され、それをコンピュータ画面のようにモニターしてみせるところである。まるで、『攻殻機動隊』のチェースシーン中のサイボーグ脳のようだった。『攻殻機動隊』以降、こういうのはサイボーグ系映画の定番になっているのかもしれない。

ワトソン像も原作を踏襲している。彼はアフガン戦争に軍医として参戦、帰国後はPTSDに悩まされている。足が不自由だが、それは心因性のもの。友人の紹介でシャーロックと部屋をシェアすることになり、挙げ句の果てにシャーロックの「探偵ごっこ」につきあう羽目になる。

シャーロックを取り巻く警察関係者も原作とはまったく変えられている。同じなのはレストレード警部 のみ。彼はシャーロックに犯罪のコンサルティングを依頼しているが、他の警察関係者はそれを疎ましく思っている。以下はシャーロックに唯一好意的な監察医のサラ・ソーヤー(ゾーイ・テルフォード)。


下宿の女主人、ハドソン夫人も原作よりは若返ったような。第一話から早速登場するシャーロックの兄のマイクロソフトは、原作よりもずっとシャーロックとの関わりが強いように描かれていた。

第一話、「「ピンク色の研究」(A Study in Pink)はもちろん、原作では「緋色の研究」(A Study in Scarlet)。内容は大筋のところは同じだった。「緋色の研究」はシャーロック・ホームズ・シリーズ中の冒頭作品だが、その大枠を壊さず、現代に設定を移し替えて上手く脚本にしていた。私が一番すきなのは「バスカヴィル家の犬」なのだが、それは第二シリーズに収められているようである。

犯人を演じた役者(タクシーの運転手)がよかった。屈折した心理をみごとに表現していた。いまでもシャーロックとの心理戦のときの顔が浮かぶほどである。

さすが演劇の国、英国。俳優たちがみんな一癖も二癖もある。ハリウッドとは違う。演技力の点でも秀逸である。脚本、演出も優れている。これで賞をとらなければオカシイとおもったら、案の定、「英国アカデミー賞英国放送記者組合賞」、それに「エミー賞ミニ・シリーズ部門脚本賞」を受賞していた。ワトソン役のマーティン・フリーマンは「英国アカデミー賞テレビ部門最優秀助演男優賞」を受賞したそうである。