yoshiepen’s journal

さまざまな領野が摩擦しあい、融合し、発展するこの今のこの革命的な波に身を任せ、純な目と心をもって、わくわくしながら毎日を生きていたいと願っています。

ルジマトフがすばらしい『海賊』レニングラード国立バレエ公演@兵庫県芸術文化センター 1月15日

2007年から正式にはミハイロフスキー・オペラ・バレエとなった。もちろんかってのロシア帝国の首都、サンクトペテルブルクのバレエ団である。「レニングラード」なんてレーニンにちなんだ名前にされてしまってはいるけれど。モスクワが首都になってしまったが、サンクトペテルブルクはその昔芸術文化の都として栄えた地である。その花の都のバレエ団、それも170年の伝統を誇るバレエ団がすばらしくないはずがない。

『海賊』はもちろん初めてである。というかバレエそのものが初心者に近い。ヨーロッパのもの(ロシアを一応ヨーロッパに入れるとして)は初めてである。下調べもせずにみに行ってしまったので、帰宅してネットでバレエ団の日本語のオフィシャルサイトに入ってみた。それで話の内容がようやく分った。以下そのサイトからの「あらすじ」。

海賊船が荒海で難破し、島の岸辺に打ち上げられた海賊たちを、メドーラたちギリシャの娘たちが見つけ介抱する。海賊の首領コンラッドとメドーラは一目で恋に落ちる。そこにトルコ軍がやってきて、娘たちをさらって行く。娘たちは、奴隷市場で競売にかけられ、メドーラもトルコ総督に売り飛ばされそうになるが、アラブの高僧に化けたコンラッドらに助けられる。コンラッドはメドーラを海賊の隠れ家である洞窟に連れて行く。メドーラは、海賊に捕らえられた娘たちを故郷に返して欲しいとコンラッドに訴え、聞き入れられる。が、コンラッドの部下ビルバンドは、それを面白くなく思い、コンラッドに眠り薬をかがせ、殺そうとする。だがコンラッドが、目を覚ましたので、メドーラだけを連れ去っていく。メドーラが連れてこられたのはトルコ総督のハーレム。そこに、托鉢僧に化けたコンラッドがやってきてメドーラを助ける。コンラッドやメドーラたちは船に乗り、大海へと漕ぎ出でる。

本来なら3幕であるところ、今日の公演(20分の休憩をはさんで90分だった)では2幕に短縮されていた。だから最後の「逃避行」の部分なかった。今回の公演でバレエの監督をしたファルフ・ルジマトフの案によるものだったそうである。みどころは押さえられていたように思う。

まず圧倒されたのは舞台装置の華麗さだった。今までにみたオペラ、もちろんバレエ、演劇の舞台の中でも抜きん出て凝ったものだった。冒頭から舞台前面のスクリーンに難破するシーンが映しだされるのだが、そこからもう幻想の世界になる。ドラマが始まる前から観客をまるで夢をみているような気分にさせてしまう。すばらしい演出だった。以下いくつかのシーンを公式サイトから借用させていただく。今日の舞台装置はこのサイトのものとは大分違っていたが、それでも凝り方が同格だった。芸術文化センターのモダンな造りに合わせて工夫されていたように思う。
以下、公式サイトからの写真。お借りした。

アルジェリアの踊り

パシャのハーレム(第2幕)

第一幕はギリシャ娘のギュリナーラ(サビーナ・ヤパーロフ)、そして主人公の海賊コンラッド(ルジマトフ)の登場で始まった。
まず、サイトにある主人公コンラッドのソロの踊り。

でも白眉のソロをみせるのはコンラッドではなく、友人のアリ(今日の公演ではヴィクトル・レベデフ)である。


以下再びサイトからの引用。

「海賊」というと、まずその有名なパ・ド・ドゥだけが長く日本では知られていた。いやロシア以外では「海賊」といえばパ・ド・ドゥだった。しかもその男性ヴァリエーションが有名だった。それを世界に広めたのは、伝説のダンサー、ルドルフ・ヌレエフである。全幕でそのヴァリエーションを踊るのは、当然、主役だと思われていたが、じつはそうではなく、アリと名づけられた奴隷だった。ドラマ上の役割はほとんどなく、出番も少ないこの役だがファルフ・ルジマトフというスーパー・スターを得て、全幕「海賊」で最も輝く人物となった。ヌレエフの偉業をルジマトフが継いだともいえるだろう。ルジマトフは、自ら改訂演出版を発表するに際し、アリを「主役コンラッドの友人」と位置づけている。愛するアリを、奴隷という身分から解放したのだ。

このアリのソロは圧巻だった。あのヌレエフが考案したものだということで、納得した。コンラッド役のルジマトフの持ち役だったのを、新人のレベデフに譲ったのだ。東京公演ではレベデフではなかったようなので、大抜擢である。何とも若々しくステキな踊り手だったので、ネットでしらべてみた。日本語サイトには情報がなかったので、英語で調べた。英語表記だとViktor Lebedevである。

Born in 1991 in St Petersburg, he graduated from the Vaganova Ballet Academy (class of M. Enikeyev) in 2010 and the same year joined the Mikhailovsky Ballet Company.

なんとまだ20歳で、去年名門バレエ学校を卒業したばかり。トップで卒業したので、記念公演、同じく優等で卒業したがオリガ・セミョーノワとのパ・ド・ドゥがyoutube でみれる。この相手のオリガ・セミョーノワも今日の公演にフォルバン役で出ていた。ソロも踊ったが、新人とは思えないほどの上手さだった。このシーンの紹介が英語サイトにあった。以下である。

This was from a ballet festival for ballet schools with the top two Vaganova students in 2010, Olga Smirnova and Viktor Lebedev. Viktor graduated a few months later,in June, and instead of going to the Mariinsky corps de ballet, he chose a soloist with the Mikhailovsky Ballet. Viktor is one of the best students in Vaganova history and will probably be the world's top male dancer in a few years. Olga graduates next June when the Vaganova School will have two amazing dancers graduating from the same class taught by Ludmila Kovaleva, the teacher of Diana Vishneva. Ludmila hit the jackpot with two students, Olga and Kristina Shapran,both with the potential to become future superstars. Last October, Olga won Grand Prize in the Mikhailovsky Grand Prix competition, defeating her class mate, Kristina Shapran, and also the Bolshoi School's top student, Anastasia Soboleva, who had won the junior gold medal at the June 2009 Moscow International Ballet Competition. So Olga defeated two exceptional competitors in winning Grand Prize. Olga is known for her technical brilliance, while her class mate, Kristina, is known for her great artistry. Two very different styles, but jurors went with the technician over the artist. They perform the adagio from the Nutcracker with music by Tchaikovsky and choreographed by Vainonen.

レベデフが今までのバレエ学校の歴史上まれにみるダンサーで、将来必ずや世界のトップの踊り手になることを約束された逸材であろうと予言している。相手役のセミョーノワはミハロフスキー・バレエ・コンペ(Mikhailovsky Grand Prix competition)でグランプリを取ったのだが、それは他の競争相手、その一人は同輩、他の一人はボリショイ・バレエ学校のトップ卒業生を退けての優勝だった。

今日の二人の踊りをみる限り、間違いないと思う。私が特に感動したのは、やはりレベデフだったのだが、他のお客さんたちも同じだったとみえて、アンコールで登場するたびにひとしお盛大な拍手と歓呼の口笛の声があがったのも彼だった。

とはいえ、やはりルジマトフとその相手役のプリマ、イリーナ・ペレンもその地位に恥じない実力のある踊り手だった。ペレンはまだ若いのに(すごい美人!)どういったらいいのか、もう老成しているような貫禄だった。おそらく今がもっとも踊り手として充実しているのだろう。パワー全開という観があった。

『海賊』のみどころの一つがは多くの踊り手にソロで踊る機会がある点だそうである。どの人も世界トップ級のすごさだった。

パワフルな舞台を支えていたのはソリストの力強い舞踏だけではなく、舞台に広がる圧倒的な人数の踊り手だった。多い時は50人近かった上に、みんな若かった。おそらく総勢の中で最も年長だったのはルジマトフだったのではないだろうか。少しそろわないときもあったのだけれど、それを補ってあまりある充実度だった。この層の厚さ!それをみたとき、名付し難い感動を覚えた。さすがバレエの国、ロシア。伊達に歴史を重ねてきているわけではない。

今日の公演はまさに私のバレエへの意識を決定的に変えてしまった公演だった。