楽しみにしていたThe Arsonists 、夕方7時からの上演があると思って出かけたら、2時半の上演のみだった。しかも明日の上演はないという。
本当にがっくりとした。でも不思議なことに、全米でもっとも古い劇場というこの劇場の一階に人が押し寄せてきていたので受付の支配人とおぼしき男性に聞いたところ、Aspects of Loveのドレスリハーサルがあるという。でも招待客のみへの上演ということだったので、あきらめて帰ろうとしたら、入っていもいいと言ってくれた！なんという寛大さ！もちろん無料である。こういうところの融通の効かせ方はまさにアメリカ。私がアメリカ大好きな理由もこういうところにある。
ミュージカルは好きでないが（食わず嫌いなのは分かっているけど）、この際この有名な戯曲を見逃す手はない。というわけで、３時間以上におよぶミュージカルを堪能してきた。ドレスリハーサルなので（本番は7日始まりである）パンフレットのたぐいがなく、配役が分からないのだが、一応ホテルに帰ってからこの芝居の内容を調べてみた。元の物からはかなりの変更が施されていることが分かった。かなり複雑な筋で、このまま演じると今日の時間ではとても足らない。だから端折った部分もあった。それが的確だったかどうかは意見が別れると思う。
歌い手はさすがプロで日本の劇団四季などより数等巧い人を揃えている。音楽的にはきわめて高いレベルだったのは認めるけれど、表現力では今ひとつというところがあった。特に主人公のローズ。非常に複雑なキャラクターで、相反する二面性（強さともろさ、愛情深さとエゴイズム）をその時々で表現できないと、なぜ他の人物が彼女に翻弄されつつも魅惑されるのが伝わってこない。それも２ヶ月近い興行の間に腕を上げるのは間違いないと思うが。ジョージを演じた歌手（俳優）はとにかくすばらしかった。彼の葛藤は十分な説得力を持って伝わってきたので、ローズも彼との絡みの部分では内面が際立たされていた。彼のアリアは声もさることながら、もっとも説得力のある歌であり演技だった。
ミュージカルというので軽い内容を予想したのだが、とんでもない、愛憎ないまぜたドロドロの人間関係を描いた芝居だった。それを美しい声でかなでるアリアのアイシングをかけることで、なんとか見続けることができるというほどの、シリアスな内容だった。
劇場は全米一古いという割には内部はきれいで、改装がなされていたのが一目で分かった。規模は500人程度の収容のハコだと思う。二階席だったが、とても見やすかった。劇場も梅田芸術劇場なんていうのは「オバケ」で、この劇場くらいが丁度いい。快適だった。
舞台はきわめて簡素な作りにしてあった。背景に（大衆演劇でよくあるように）たらした幕にバックからプロジェクターで景色を映すというやりかた。これは先日のHow to Disappear Completely でも使われた手法だった。本当のの幕と背景との間にもう一枚紗の幕があって、これがその時々によって奥とこちら側を区切るのだが、その曖昧な境目がとても効果的に使われていた。このミュージカルでいちばん感心した点だった。
照明は至ってシンプルで中心人物にハイライトをあてる程度だった。ドレスリハーサルだったからかもしれない。
大道具はほとんどなく、ドアを表す枠組みが2種類使われただけだった。これも大衆得劇を思わせた。その他はベッド、カウチ、テーブル、椅子程度で、回り舞台を使って舞台転換をしていた。これは西洋の劇場では初めて見た。
観客は招待客だったので、学生が多かった。多分演劇専攻の人たちだと思う。また演劇の教師と思われる人もかなりいた。若い女性はみなさんとてもきれいな方々だった。
今日はインテンシブな一日で疲れたので、時間の余裕ができたときに改めてこのミュージカルの批評をしたい。またご厚意で見ることができたので、英語でも批評を書きたい。
